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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)5561号 判決 1999年3月30日

第一事件原告

藤本修

第二事件被告

有限会社カンエイ商会

右代表者取締役

加藤英二(手形上の表示 岡村晶展)

右二名訴訟代理人弁護士

西尾剛

第一事件被告、第二事件原告

株式会社イッコー

右代表者代表取締役

増田光一

右訴訟代理人支配人

岸井勤

川瀬康裕

主文

一  第一事件被告、第二事件原告は、第一事件原告に対し、別紙物件目録記載一の土地につき大阪法務局羽曳野出張所平成一〇年五月六日受付第八三七九号をもってなされた根抵当権設定仮登記、及び、同目録記載二の建物につきなされた同出張所同年同月同日受付第八三八〇号をもってなされた根抵当権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

二  第一事件被告、第二事件被告の請求を棄却する。

三  当庁が平成一〇年(手ワ)第三〇二号約束手形金請求事件につき平成一〇年九月二二日言渡した手形判決を取消す。

四  訴訟費用は、全て第一事件被告、第二事件原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  第一事件

主文第一項と同旨。

二  第二事件

第二事件被告は、第一事件被告、第二事件原告に対し、金一五〇万円及びこれに対する平成一〇年七月一五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、貸金業者がいわゆる手形貸付をし、物上保証人所有不動産に根抵当権設定仮登記をし、保証人から保証のため振出交付された約束手形を所持しているところ、右の被担保債権たる貸付金の弁済の有無が争われ、物上保証人から右仮登記の抹消を求め、貸金業者からは右手形金の支払を求めた事案である。

一  基礎となる事実(争いがない事実、並びに、第一事件甲第一、第二、第一四号証及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

1  第一事件被告、第二事件原告(以下「被告」という。)は、株式会社アウク(以下「アウク」という。)に対し、平成四年三月一一日から平成一〇年三月二四日までの間、七六回にわたり、別紙貸金等一覧表の貸付日、貸付金額欄記載の金銭を貸付け、受渡額欄記載のとおり金銭を交付した(以下各債権につき右一覧表の番号に従い「本件貸金1」等という。)。

本件貸金1ないし76は、いずれもアウクが貸付金額欄記載の額面金額とした約束手形を被告に交付するのと引換に額面金額から利息金を天引きした額を受領し、手形満期日に約束手形を決済する方法により弁済するものであり、その利率はいずれも利息制限法に定める制限利率を超過していた。

2  第一事件原告(以下「原告」という。)と被告は、平成一〇年一月二八日、原告所有の別紙物件目録記載一(以下「本件不動産一」という。)及び同記載二(以下「本件不動産二」という。)の各不動産につき、左記の内容の根抵当権設定契約を締結した。

債務者   アウク

権利者   被告

極度額   金五〇〇万円

債権の範囲 金銭消費貸借取引、手形貸付取引、手形債権、小切手債権

3  被告は、右契約に基づき、本件不動産一につき大阪法務局羽曳野出張所平成一〇年五月六日受付第八三七九号、本件不動産二につき同出張所同年同月同日受付第八三八〇号の各根抵当権設定仮登記を了した。

4  第二事件被告(以下「第二被告」という。)は、別紙約束手形目録記載の手形(以下「本件手形」という。)を、本件貸金75の保証の趣旨で本店手形を振り出した。そして、アウクは拒絶証書作成義務を免除して本件手形に裏書きし、被告はこれを所持しているが、被告が本件手形を満期日に支払場所に支払のため呈示したがその支払はなかった。

5  アウクは、被告に対し、別紙貸金等一覧表の弁済日、弁済金額欄記載のとおり、手形を決済する方法により、本件貸金1ないし71をそれぞれ弁済した。

6  アウクは平成一〇年八月一一日大阪地方裁判所において破産宣告を受け、被告との取引を終了した。

7  原告は平成一〇年一二月一八日、第二被告は平成一一年三月二三日、それぞれ被告に対し、アウクが被告に対して支払った利息制限法による制限利息を超過する支払により生じるアウクの被告に対する不当利得返還請求権と、被告のアウクに対する貸金返還請求権とを対当額において相殺する旨それぞれ意思表示した。

二  争点

1  貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という)四三条一項の適用の有無

2  制限超過利息の支払による不当利得返還請求権と別途の貸付金の元本に対する充当の有無、適否

三  原告及び第二被告の主張

1  被告は本件貸金1ないし76につき利息を天引しており、約束手形によりアウクより取立てた金員は元金であって、現実に利息として金銭を交付したことはなく「利息として支払った」金員はない。また天引にはアウクの行為も意思も介在しておらず、任意性の要件を満たさない。

2  最初の借入について制限超過利息を元本充当し、返済日における過払い額を算出し、その返済日に近い次の借入日にかかる借入元本から前の過払額を控除して実質元本を算出して次の過払い利息を計算し、順次同様の計算を繰返すべきである。

四  被告の主張

1  被告は、貸金業者(貸金業法二条二項)であって、本件貸金ごとに、アウクに対し、貸付日、貸付金額、貸付利率及び支払期日等、貸金業法一七条一項に定める内容を記載した被告の名称と住所の入った貸付金明細書を交付している。そして、債務者の利息の支払いに充当されることを認識した上、自己の自由な意思によってこれらを支払った場合には利息の支払いが任意になされたものと考えられるところ(最判平成二年一月二二日判決)、本件でも支払を強制した事実はなく、貸金業法四三条一項によりみなし弁済の規定の適用がある。

2  仮にみなし弁済の適用がないとしても、原告主張のごとく超過利息が次の貸付けに当然充当されるべきものではなく、個々の貸付ごとに不当利得返還請求権が発生し計算されるべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1

1  そもそも、貸金業法四三条一項においては、貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息(利息制限法(昭和二九年法律第百号)第三条の規定により利息とみなされるものを含む。)の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払った金銭について、一定の要件を満たす場合に、利息制限法一条一項の規定にかかわらず有効な利息の支払いとみなすものとし、貸金業法四三条三項において賠償額の予定につき同条一項を準用するにとどまり、右各条項の文言上、貸金業法四三条一項は利息制限法一条一項及び四条一項の特則ではあるが、同法二条(利息の天引)に対する特則とはされていない。これは、貸金業法四三条における「利息として支払った」との文言にも、基本的には金銭の現実の交付を要する趣旨をくみ取れることとも符合するうえ、利息の天引は貸付けの条件とされていることが一般的であって任意の支払とは評価しがたいことに根拠があるものと考えられる。

2  そうだとすれば、利息を天引きしている本件では債務者であるアウクは、利息に相当する金額の元本を当初から受領しておらず、被告に対し利息金として金員を交付したことがないことから、貸金業法四三条の適用を受けることはなく、とりわけ、被告が元金を約束手形を決済する方法により支払いを受けることになっている本件においては、その後の元本の支払いもこれを怠れば銀行取引停止処分を受ける危険性を背景としたものであって任意のものといえるかどうかにつき疑問もあり、貸金業法四三条の適用の余地はない。

3  これに対し、天引でも、その経済的な効果をみれば金員を現実に交付したのと同視しうるともいえ、この点供託あるいは債務者の側からなす相殺は任意に支払ったものと評価する余地があるとしても、貸金業法に趣旨に鑑みれば、貸金業者から金銭を借受けた債務者が利息金をそれと明確に認識することが必要であって、天引ではかかる時点で利息金が具体的請求権としては発生しておらず、これを利息として支払ったことと同視することは妥当ではないと解される。

4  よって、本件貸金1ないし76について、いずれも貸金業法四三条一項の適用はない。

二  争点2

被告のアウクに対する貸金では、新規貸付金が自動的に次の債権の弁済に充当された処理がなされている事実は全証拠をもってしても認められないこと、前記のとおり貸付日、弁済日の関係もまちまちであって、これらが別個の貸金債権として独立したものであると推認されることから、原告の主張には理由がない。

三  以上のとおり、本件貸金1ないし71は、別紙貸付等一覧表の各弁済日欄記載の日に弁済額が弁済されたため、これらにつき利息制限法所定の制限利息を算定すると、それぞれ同表の超過利息(不当利得)欄記載のとおり、アウクから被告に対し不当利得返還請求権が発生する。そして、それぞれにつき法定利息年五分が生じ(被告は貸金業者であって利息制限法所定の制限利息超過の事実を認識しており、悪意(民法七〇四条)と認められる。)、順次本件貸金72ないし76(但し、別紙貸金等一覧表の各残額欄の第一段記載のとおり、まず貸付金額から利息制限法所定の超過利息が元本に充当されたものとみなして控除し(利息制限法二条)、さらに第二段において先行する直前の貸金との間で、順次相殺により消滅する不当利得返還請求権を確定していき、その最後の不当利得返還請求権の残額及びこれに対する右貸金の弁済日から次に弁済日が到来する貸金の弁済日までの法定利息を控除した額を基準とする。)とその対当額において、本件貸金72ないし76の各弁済日記載の日に相殺の効果が生じて消滅し(各貸付日ではなく各弁済日を基準とするのは被告に利息制限法の範囲内で利息を取得する期限の利益があるため。一方、これにより本件貸金72ないし76についていずれも損害金が生じない。)、これにより被告の本件貸金はいずれも消滅したと考えられる。

そして、アウクの破産によりその後に被告とアウクの間に新たな債権債務関係が発生していないと認められるから、原告の請求は理由があるからこれを認容し、被告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邉安一 裁判官今井攻 裁判官武田正)

別紙<省略>

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